日本産業衛生学会 中国地方会
地方会ニュース 第40号(令和5年1月)
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産業保健と気候変動

大谷 眞二
鳥取大学 国際乾燥地研究教育機構
 2022年11月にエジプトで開催された第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)において、気候変動による「損失と被害」を受けた開発途上国を支援する基金の創設が決まりました。ここでの、「損失と被害」とは、気候変動に起因する異常気象や災害で開発途上国がうけた損害を指しますが、気候変動は途上国のみならず世界中のあらゆる地域や事象に負の影響をもたらしています。例えば、気象災害による人、インフラ、農作物などへの影響は、インパクトが強くてわかりやすく、損害の額も算出しやすいことは想像に難くないと思います。しかし、気候変動による地球温暖化は、目に見えにくい労働生産性にも大きな損失を与えると言われています。
 国際労働機関(ILO)は、2019年に地球温暖化による熱ストレスによって世界の労働生産性が大幅に低下すると予測しています。これによると、2030年までに世界の労働時間は2.2%短縮せざるを得ず、フルタイム雇用に換算して8000万人に相当する生産性が低下し、2兆4000億ドル相当の経済的損失が見込まれるとされています。この予測は産業革命以前と比べ今世紀中の世界平均気温の上昇を1.5℃までに抑えること(いわゆる「1.5℃の約束」)に成功していることが前提になっていますが、残念ながら、世界気象機関(WM0)の報告では、2021年の時点で、産業革命以前よりすでに1.11℃上昇しています。加えてウクライナ紛争や新型コロナウイルスのパンデミックなどによる世界情勢の不安定化によって、いまだに多くの国が化石燃料に頼らざるを得ない状況が続き、「1.5℃の約束」を守ることは極めて厳しいと言えます。
 日本の平均気温も変動を繰り返しながらも上昇傾向にあり、気象庁によると100年あたり1.28℃の割合で上昇しており、さらに最高気温が30℃以上の真夏日や35℃以上の猛暑日の日数も増加傾向で、100年あたり真夏日は7日、猛暑日は1.9日増加しています。これらの変化は、いずれも最近30年間に顕著になっており、おそらく、多くの方が近年の猛暑として実感しているのではないでしょうか。暑熱環境の悪化に伴い、熱中症の発生も増加しており、最近では全国で年間800人前後が亡くなり、猛暑であった2010年や2018年は1500人以上が死亡しています。職場での熱中症による死亡者及び休業4日以上の業務上疾病者も増加傾向であり、例年500人前後で推移していた数も2018年は1178人、2020年は959人と1000人前後になることも珍しくなくなりました。2022年も暑い夏であったことは記憶に新しいですが、おそらく過去最悪レベルに近い値になることが予想されています。
 まさに、気候変動対策「待ったなし」という状況ですが、欧米諸国と比較すると日本政府の対応は遅れていると国際的には指摘されています。加えて、気候変動の危機感を感じていない人がわが国には多いとも言われています。気候変動対策は、温暖化の要因となっている温室効果ガスの排出量を減らす「緩和」と気候変動による被害を回避・軽減させる「適応」に分けることができます。わが国はもともと自然災害が多く、災害対策のノウハウは世界トップクラスであるため、「適応」を気候変動対策という枠組みであまり意識していない可能性があります。また、「緩和」の柱である脱炭素への取り組みは「我慢や不便」と捉えられやすく、負担を感じやすくさせているとも言われます。環境省は、気候変動対策は「我慢」でなく「賢い選択」であることを強調していますが、今ひとつ浸透していないのも事実です。気候変動対策の両輪である「適応」と「緩和」ですが、わが国では、どうやら「別モノ」と考えられているようです。少しこじつけになるかもしれませんが、産業保健は企業と個人の両方の健全性に関わっていますので、「適応」と「緩和」という気候変動対策にもっとも寄り添うことができる分野のひとつではないかと感じている昨今です。
第96回日本産業衛生学会のご案内
第96回日本産業衛生学会開催について


諏訪園 靖
千葉大学大学院医学研究院環境労働衛生学・教授
長く続くコロナ禍を経て、FIFAワールドカップカタール2022が開催されました。コロナ流行の収束傾向を判断し、これまでの様々な制限が緩和されています。日本チームも決勝リーグまで進出し、そのゲームは日本中に感動をあたえたと思います。2020年開催予定だった東京オリンピックは延期、無観客開催となりましたが、その後国際的なイベント等の交流は再開されつつあることを実感します。新型コロナウイルスの脅威に立ち向かい、懸命に尽力してきた世界中の人々に感謝したいと思います。また、産業保健の現場においても、人々の健康、労働を守るため懸命に尽くしている皆様に心より感謝申し上げます。おかげさまで、本年5月10日から12日の3日間で、第96回日本産業衛生学会が開催されます。会場は昨年オープンしたばかりの宇都宮駅東口「ライトキューブ宇都宮」で、駅直結で徒歩2分とアクセスの良い集約型の会場です。現地開催とウェブ配信を併用したハイブリッド開催とし、どこからでもオンラインで参加可能とし、また現地でも安心して参加していただけるよう、十分な感染症対策を講じたいと思います。学会テーマは「強くしなやかな産業保健をめざして」です。産業現場における感染症対策の強化とともに、その一環として、ウェブ会議などリモートワークが一気に普及し、あらゆる場所での労働が急速に一般化しました。このような課題に対応していく産業保健の強さとしなやかさについて検討を深めたいという思いです。海外の産業保健の現状や、今後の日本の産業保健の将来像、現場での作業の有害性への対策のありかたなど、プログラムの企画を進めております。ぜひ多数の方にご参加いただき、活発かつ有意義な討論がなされるよう、準備を進めてまいりたいと思います。ぜひ中国地方会の会員の皆様にも、ご参加いただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします。また、第97回日本産業衛生学会は広島で開催されます。また来年広島にお伺いし、皆様と交流できることを心より楽しみにしております。
第66回中国四国合同産業衛生学会の報告
第66回中国四国合同産業衛生学会の報告

田邉 剛
山口大学大学院 医学系研究科 
公衆衛生学・予防医学講座
 中国地方会の皆様、第66回中国四国合同産業衛生学会を担当いたしました、山口大学の田邉です。去る2022年10月29日(土)~10月30日(日)に宇部の山口大学医学部キャンパスで開催いたしました。職域において近年変化する化学物質管理を重要な課題と考え、「化学物質管理の歴史的側面と具体的実践方法」をテーマといたしました。新型コロナ感染の第7波の感染者が非常に多かった影響から、完全オンラインで開催いたしました。
 学会内容ですが、第1日目の部会研修会は二部制で、一部は技術部会、歯科部会、二部は看護部会、医部会の研修会をご提供いただき、参加される方が複数の部会研修会を視聴できるようにいたしました。各研修会は非常に興味深い内容で、意見交換も積極的に行われていました。また産業医の単位取得には対面での受講が必須であるため、現地受講の会場も準備いたしました。
 第2日目は一般講演と特別講演でした。一般講演は5題の発表でしたが、幅広い分野からのご発表で、異なる分野の情報収集に有益だったという評価がありました。特別講演では産業医科大学の堀江正知先生から「化学物質管理に関する労働衛生法令の動向」の題で化学物質管理の歴史から現在の複雑な規制について、大変わかりやすくまとめていただきました。また三井化学株式会社の土肥誠太郎先生から「自律的な化学物質労働衛生管理の実践」の題で化学物質管理の実践法について、具体的なレベルで大変詳しくお話をいただきました。
 さてこれで本学会は2年連続オンライン開催となりました。意外にも早い準備段階からオンライン併用のリクエストが多くありました。中四国の地形から、それぞれ行き来に時間のかかる離れた県に行くのも予定が合わない場合も多いかと思います。オンライン併用が出席される方が増える事につながるかと思いました。今後コロナが落ち着いた後にも、オンライン継続を検討する事になるかと考えます。ただ主催者側としてはふだん慣れていないシステムを準備するのもかなり大変ですし、外部委託は費用が多くかかります。そこで今回の役員会で、学会としてハイブリッドのシステムを常時用意しておけば、主催者がそれを利用して開催することができて便利ではないかというご意見が出ました。もし実現すれば、学会開催が非常にスムーズにいくことと思います。
 最後に改めまして今回の学会にご参加いただきました方々、ご発表いただきました先生方、ご支援ご協力をいただきました関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。
理事会報告
2022年11月27日


2022年度第3回理事会報告

鎗田 圭一郎
鎗田労働衛生コンサルタント事務所
2022年の第3回理事会は下記の日時・場所で開催されました。
・2022年10月30日(日)13時~17時・ビジョンセンター東京駅前
 審議事項、協議事項、報告事項の主な事項に関し内容を簡単にご報告いたします。
1.審議事項
1) 表彰制度候補者推薦について:各委員会から選出の経緯と結果が発表された。研究者と実務者を同じ土俵で評価する困難さが議論された。選出結果は下記の通りである。
学会賞:堤 明純 氏 (北里大学医学部公衆衛生教授)
功労賞:村﨑 元五(むらさき げんい)氏
奨励賞:各務 竹康 氏 (福島県立医科大学 医学部 衛生学・予防医学講座)
    豊岡 達士 氏 (独立行政法人労働者安全機構 労働安全衛生総合研究所)
名誉会員:能川 浩二 氏 (関東地方会会長 諏訪園 先生からの推薦)
2) 代議員の定数について:各地方会の代議員定数の算出にあたり規程の解釈を誤り各地方会代議員選挙で混乱が生じたが、今回は当初示された代議員定数は訂正せず代議員定数を確定した。両監事よりこの案で公平性が保たれており、各地方会がこの定数に従って公正に選挙を行っていることで問題なく、再選挙を求めるほどの瑕疵がない、などの意見も得られた。
3) 年次学会運営委託業者の選定について:公募があった2社から2回のプレゼンを受け、㈱JTBコミュニケーションデザインに決定された。
4) 謝金等の取扱いについて:日本産業衛生学会の地方会、委員会、部会、研究会等での謝礼・報酬に関する申し合わせが示された。
5) 感謝状の贈呈について:感謝状贈呈内規(案)が示された。
6) 一般演題発表のガイドラインについて:第2回理事会での審議を経て一般演題発表指針が示され、年次学会や全国協議会の「一般演題登録」のページにこの規約を開示し、演者が自己管理すること、年次学会や全国協議会の事務局などによる確認は行わないこと、などが説明された。
7) AMED研究支援小委員会の設置について:学術委員会の小委員会とすることなどが報告された。
8) 国際交流事業について:「持続可能な産業衛生のためのアジア研究プロジェクト(Occupational Health for SDGs:Research Development Project in Asia)」の募集要項が示された。
9) 会員向け調査について:本年度も実施する予定であり、「質問項目の追加があれば学会本部へ連絡して欲しい。」とのことであった。
2.協議事項
1) 基盤事項推進タスクフォースの設置について:「100周年ミッションと重点活動」基盤事項推進タスクフォースについて(案)が示された。
2) 第95回日本産業衛生学会開催報告:2000名の現地参加があり、459万円の黒字であったことが報告された。
3) 第96回日本産業衛生学会準備状況報告:2023年5月10日(水)~5月12日(金)、ライトキューブ宇都宮で開催、詳しくは学会HP参照。
4) 第97回日本産業衛生学会準備状況報告:2024年5月22日(水)~5月25日(土)、平和公園ゾーン(広島国際会議場、広島市文化交流会館、JMSアステールプラザ)で、「現地・webのハイブリッド方式(+オンデマンド)」の開催方式で開催、中国地方会の役員選挙後に企画運営委員長を選出する予定であること等を報告させていただいた。
5) 第98回日本産業衛生学会の担当について:東北地方会が担当、第99回を近畿地方会が、第100回を九州地方会が担当する予定であることが報告された。
6) 第32回全国協議会開催報告:現地参加1147名、オンライン参加が784名であったことが報告された。
7) 第33回全国協議会準備状況報告:2023年10月27日(金)~29日(日)、山梨県甲府市で開催、詳しくは学会HP参照。
3. 報告事項
1) 専門医制度委員会報告:2022年度第2回専攻医試験は2022年8月6日(土)に北九州で行われ5名受験で5名合格、2022年度専門医試験は8月20日(土)21日(日)に大阪で実施され28名受験し22名が合格されたこと等が報告された。
2) 政策法制度委員会報告:第96回日本産業衛生学会で「化学物質の自律的管理に向けて、それぞれの産業保健スタッフの果たすべき役割」というシンポジウムを企画。
3) 産業看護専門家制度委員会報告:2022年10月14日現在の登録者総数は1020名であること等が報告された。
4) 広報委員会報告:「ウエブサイトへの掲載依頼についてはメルマガ24号に記載しているので、それを改めてご担当の下部組織へお知らせいただきたい。」旨の報告があった。
5) 業務執行理事報告:「産業保健のあり方に関する検討会」への参加等が報告された。資料として厚労省の「産業保健に関する現状と課題」および「今後の産業保健のあり方に関する論点」が提示された。
6) 会員の状況:正会員数:8637人(2022年10月17日現在)
以上 
部会報告 産業医部会報告
産業医部会報告

部会長 奥田 昌之
 中国地方産業医部会は令和4年度の研修会を例年通り中国四国合同産業衛生学会に併せて開催しました。「ヒトの概日リズムと労働時間」と題して、山口大学時間学研究所の明石真先生にご講演いただきました。概日リズムの概念、ご自身の研究成果などをご紹介いただき、労働者のシフト勤務や労働者の概日リズム特性に応じた対応についての示唆をいただける内容でした。部会員の将来の学術活動や日常業務に役立てば幸いです。
 学会が会場現地参加とオンライン参加のハイブリッドとなり、研修会もどちらにも参加がありました。およそ半分ずつの参加で、現地には非学会員が多く部会員はほとんどオンラインでのご参加でした。これまでの研修会は日本医師会の認定産業医実地研修の要件を満たす内容で行われてきました。今回実地研修に該当しないため、部会員の現地参加が少なかったのかもしれません。今後もオンライン研修会なら、視聴者との動画やファイルの共有や個人対応の双方向性通信(シミュレーション、集計の速いレスポンスシステムやアンケートなど)も可能です。コンテンツ作成が鍵になります。
 研修会の参加には学術集会参加費が必要で、学術集会からの場所を用意いただいていますが、金銭的な支援はありません。研修会は部会員・学会の会費で賄っています。学会の産業医部会によれば部会費を納入している部会員にとっての特典はプロフェッショナルコース参加費の割引と部会報を発行時に読めることです。部会報は数か月すると学会ホームページに公開されます。「産業医活動の充実、発展をはかる」ことを目的にした活動として今後どのような形態の研修会がよいのかを考えてみる必要があります。来季からは真鍋憲幸先生、塩田直樹先生のもと新しい体制で取り組まれると思います。来季の中国四国合同産業衛生学会で行う研修会は、これまでと同様に四国地方産業医部会と対等の関係で研修会を半分ずつ受け持つことになっています。
 最後に地方会産業医部会のことではありませんが、学会の産業医部会の幹事も担っていました。産業医部会に各委員会から委員の推薦を求められます。私は生涯教育委員会の委員をしてきました。学会員から集めた学会のGood Practice Samples (GPS)集をホームページに公開しています。委員になるまで正直なところ利用する機会はほとんどありませんでした。GPSの投稿やその利用も「産業医活動の充実、発展をはかる」ことに貢献できるように思います。
部会報告 産業歯科保健部会報告
産業歯科保健部会報告

森田 学
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 
予防歯科学分野
この1年間での産業歯科保健に関する私の個人的トピックスですが、ご容赦ください。

1.「かみにくい・かめない」と自覚している成人は男性の方が多い
 2018年度から特定健康診断の標準的な質問票の設問に「咀嚼」に関する質問が採用されました。具体的には「なんでもかんで食べることができる」「歯や歯ぐき,かみあわせなど気になる部分があり,かみにくいことがある」「ほとんどかめない」の3択です。2021年に、厚生労働省のNDB オープンデータでその集計結果(2949万人)が公表されました。
 当たり前ですが、加齢、すなわち歯の喪失に伴い「咀嚼に問題がある人(かみにくいことがある/ほとんどかめない)の割合」は高くなります。40~44歳では約10%で、70~74歳では20%を超えます。面白いことに、どの年齢層でみても男性のほうが女性よりも高いという結果でした。自分で調理する機会の多い女性は、咀嚼機能の低下を調理方法の工夫で補正しているのでしょうね。過去の調査では、咀嚼機能の低下によって、男性の方が健康寿命の影響を強く受けるともいわれています。世の男性、いつまでも人任せの料理にばかり頼ってはいけないのです。

2.歯科健康診断(安衛則)の改正による混乱が予想されます
 令和4年10月1日をもって、労働安全衛生規則にある歯科健康診断(いわゆる歯牙酸蝕症健診)の項目が改正されました。改正点は以下の2点です。

歯科健康診断を実施する義務のある事業者について、使用する労働者の人数にかかわらず、安衛則第四十八条の歯科健康診断を行ったときは、遅滞なく、歯科健康診断結果報告書を所轄労働基準監督署長に提出することとする
現行の定期健康診断結果報告書(安衛則様式第六号)から、歯科健康診断に係る記載欄を削除することとし、歯科健康診断に係る報告書として、「有害な業務に係る歯科健康診断結果報告書(様式第6号の2)」を新たに作成する。
要約すると、これまでは常時50人以上の労働者を使用する事業者に対しての健康診断であったのが、人数制限の撤廃がなされたこと、そして報告書の新様式が現れたことです。法改正に伴い、今後歯科医師が事業所に出向く機会が多くなると考えられますが、それに伴う混乱もいくつか予測されています。
1) 当該健康診断の“呼称”に起因する混乱
 一般的に歯科医師は、「健康診断」といえば、う蝕や歯周病といった、最もポピュラーな疾患を対象とした健診を真っ先に想定します。一方、事業者側が求める歯科健康診断の対象疾患は法規の通り、有害業務に起因する歯の疾患です。依頼された歯科医師がその点を誤解していたら、話がややこしくなります(表1)。
2) 歯科医師の認識・経験不足による混乱
 歯科医師側がどこまで正確に対応できるのか危惧されます。産業歯科医という言葉はありますが法的な裏付けはなく、「産業歯科保健にも関心がある」程度の意味合いです。今までの経験が少ないことから、判定スキルをこれから磨かなくてはなりません。有害業務に従事していなくても、似たような症状を呈する疾患もあるのです。そうなると、事業所での有病率に大きく影響します。事業者としてもただ事では済まされないかもしれません。また、費用対効果を考え、歯科医師側が参加に消極的になる可能性もあり、事業者との軋轢が生じるかもしれません。
 とはいえ、「待ったなし」での改正、混乱を覚悟で進めていかなくてはなりません。関係者の皆さまの、ご支援をお願いします。
表 「健康診断」の法的な位置づけ
医科 歯科
全労働者対象の健康診断
労働安全衛生法【第六十六条】第1項
全労働者対象の健康診断
(う蝕や歯周病の健康診断で法的な根拠は無い)
有害業務従事者対象の特殊健康診断
労働安全衛生法【第六十六条】第2項
有害業務従事者対象の特殊健康診断
(労働安全衛生法【第六十六条】第3項
でいうところの健康診断)
部会報告 産業看護部会報告
第66回中国四国合同産業衛生学会 
産業看護部会研修会を振り返って


立川 美香
宇部フロンティア大学 看護学部 看護学科
 2022年10月29日から30日の会期で、山口大学医学部医学系研究科 公衆衛生学・予防医学講座 教授 田邊 剛 先生を学会長に、第66回中国四国合同産業衛生学会が開催され、これに併せて10月29日に産業看護部会研修会を開催いたしました。

 今回の産業看護部会研修会は、産業医科大学産業医学実務研修センター 教育教授 柴田 喜幸 先生に『健康教育の技術力向上』~イケてる教育設計書を作ってみよう~というテーマでWEB開催し、75名の方が参加されました。

○産業看護部会研修会を振り返って
 研修会を開催するに当たり、産業看護職が日頃から「無関心期への健康教育をどうすればいいのか」「健康に興味のない方に対する教育の方法を知りたい」という悩みを抱えていることからこのテーマにしました。
 柴田先生から、インストラクショナルデザイン(ID)に基づいた教育設計学を学び、「来たくて来ている人ばかりではない集団に、どう教える/伝えるか」の力量をあげるために、事前に参加者が現在行っている教育を設計シートに落とし込み、研修を受けながら教育設計を見直す体験ができました。
 柴田先生がされるこの研修自体が、IDで設計されているため、研修を通して教育の進め方の工夫・アイデアも同時に学ぶ事ができました。研修の中で「産業保健における健康教育 5つの掟」が紹介されましたので、ここに掲載します。
「産業保健における健康教育 5つの掟」
その1.実施理由をはっきりさせよ。特に、経営上の意義を言葉にせよ。
その2.対象者像をはっきりさせよ。
その3.教育のゴールをはっきりさせよ。
その4.ゴールの到達を調べる方法をはっきりさせよ。
その5.「アクティブ・ラーニング」を多用せよ。
研修会に参加された方からは、
この2年くらいオンライン研修が増えて、伝え方を工夫する必要性を感じておりました。研修を企画運営、実践するにあたってのヒントを頂けました。次の機会に使ってみます。
研修を企画する上での多くのヒントを得られました。今までは教育資料作成しながら何となく構成を考えていることが多かったので、これからはしっかりと、計画書を作り込んでから資料作成に取り掛かろうと思います。

などの、貴重なご意見ご感想を多くお寄せいただき、実践に役立つ充実した産業看護研修会となりました。
○運営事務局として振り返って
 今回の研修会はWEB(ZOOM)開催だったため、研修の案内や参加者の募集・集計、アンケートの集計まで全てWEBの機能を活用して行いました。そのため事務局運営も効率的・効果的に行うことができました。また、WEB研修は、参加が難しい遠方の方も参加することができ、多くの方にご参加いただきました。さらに、ZOOM機能の「ブレイクアウトルーム」を活用することにより、普段では交流できない受講者同士のコミュニケーションを簡単に図ることができることができます。しかし、申し込みをされた方がちゃんと研修に参加できたか、講師の声や資料は正しく視聴できたかなど、研修会を終えるまではリアル会場開催とは違った不安や心配を体験しました。こういったWEB研修のメリットやデメリットも学ぶ事ができました。
 新型コロナ感染症を機に、研修のスタイルが一気変わり、今やWEB機能の活用、それもスムースにスタイリッシュに使いこなすのがあたりまえになってきました。産業保健に携わる者の役割は何なのか、われわれは何をゴールにしているのか、もう一度『設計』を考え直す大変貴重な機会となりました。

研修会開催のチラシ

教育設計シート
部会報告 産業衛生技術部会報告
2022年度活動報告

田口 豊郁
「産業衛生技術部会」中国地方会代表幹事
川崎医療福祉大学医療福祉学部 名誉教授
田口労働安全衛生コンサルタント事務所
産業衛生技術部会について
 日本産業衛生学会産業衛生技術部会は,2001(H13)年4月,高知で開催された日本産業衛生学会総会において承認(産業医部会,産業看護部会に次ぐ3番目の専門部会として)されました.当部会は日本産業衛生学会の会員が産業衛生のあらゆる分野での資質向上に努める際,特に技術的側面に焦点を合わせて互いに切磋琢磨・支援できるような共通の場として設けられました.産業衛生技術系会員相互の意見・技術交流はもちろん,活動指針の検討や他の部会と連携した総合的な産業衛生活動の円滑な推進発展も,部会活動の目的にしています.
 中国・四国産業衛生技術部会としては,地方部会から全国に情報を発信できる活動を続けたいと考えています.そのためには,研修会の充実,研修会以外の活動,地方会内の他の部会との連携強化,他の地方会の産業衛生技術部会との交流等を計る必要があると考えています(そのためには会員数を増やすことが最優先課題です).産業衛生技術部会に入会し,中国・四国地方会の技術部会での活躍を期待しています.
 産業衛生技術部会の活動状況については随時,ホームページで紹介しています.当部会へは,日本産業衛生学会員であればどなたでも入会できます.日本産業衛生学会費以外の会費はかかりません.
(産業衛生技術部会ホームページhttp://jsoh-ohe.umin.jp
1.2022年度活動報告
 昨年度同様,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に振り回された1年でした.
 2022年度は,①第95回日本産業衛生学会,②第32回日本産業衛生学会全国協議会,および③第66回中国四国合同産業衛生学会――の中で以下の活動を行いました.
1) 第93回日本産業衛生学会(高知,会場およびライブ配信2022年5月25日~28日,オンデマンド配信6月16日~30日)
①産業衛生技術部会専門研修会 「新しい時代の働き方:高年齢労働者の安全衛生管理」.高年齢労働者の安全と健康確保対策:エイジフレンドリーガイドラインを踏まえて,他計57題
②産業衛生技術フォーラム 「自律的な化学物質管理への転換」,新しい化学物質管理の概要,他計5題
③シンポジウム 「新しい時代の産業保健を考える」,各4部会長からの報告,産業衛生技術部会:産業衛生技術職(ハイジニスト)の発展と新しい時代の産業保健への貢献
2) 第32回日本産業衛生学会全国協議会(札幌,会場およびライブ配信2022年9月29日~10月1日,オンデマンド配信~10月30日)
①産業衛生技術部会シンポジウム 「自律的な化学物質管理への転換:産業保健分野の専門家の業務はどう変わるか?」:新たな化学物質規制の施行に向けて,他計4題
②産業衛生技術部会研修会 「特化則の規制対象となった金属アーク溶接作業等の現状と対応」:特化則改正の概要,他計4題
③4部会合同シンポジウム 「30年を振り返り『これから活躍できる人材の育成と今後の展望』」産業衛生技術部会「自律的な化学物質管理を踏まえた技術専門家(ハイジニスト)の育成」
④産業衛生技術部会企画自由集会 「フィットテストを体験してみましょう」
3) 第66回中国四国合同産業衛生学会(山口,2022年10月29日~30日オンライン開催)
①産業衛生技術部会研修会(10月29日) 化学物質のリスクアセスメント(河野亮,三井化学),自立的な化学物質管理:労働衛生コンサルタントの視点から(高月克己,サンキョーエンビックス),計2題
4) 産業衛生技術部会幹事会
 拡大幹事会を会場およびWebで開催した(第1回:5月27日,第2回:9月30日)
 上記の2022年度活動報告にあるように,新しい化学物質管理の話題が多く取り上げられています.事業場における化学物質管理体制の強化を目的として,化学物質規制体系の見直し(自律的な管理を基軸とする規制への移行)が急速に進められています(令和3年7月19日:職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書――化学物質への理解を高め自律的管理を基本とする仕組みへ――等を参照).これまでの法令準拠型から化学物質の自律的管理への流れは,産業衛生技術部会にとって重要な課題となっています.
 「化学物質の自立的管理への流れ」の中でも,労働衛生の三管理は基本的な視点です.産業衛生技術部会は,これからも,作業環境管理(Working Environment Control),作業管理(Work Practice Management)を中心とした幅広い研究・実践活動し,それらの情報を発信していきます.
編集後記
日本産業衛生学会中国地方会 会長
神田 秀幸
岡山大学学術研究院医歯薬学域公衆衛生学
 明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
 昨年(2022年)は激動の年でした。COVID-19はオミクロン株に置き換わり断続的な感染流行は収まることを知らず今なお続く状況でした。ロシアによるウクライナ侵攻により、平和な世の中から一変して、世界規模の緊張状態が高まった年でもありました。またそれによる原材料価や輸送費の高騰、世界経済を反映した記録的な円安などにより物価高騰が続き、私たちの生活も痛みを伴うこととなりました。一方で、歴史を塗り替え、新たな時代の到来を感じさせる出来事もありました。プロ野球ではヤクルトの村上宗隆選手が最多本塁打記録を58年ぶりに更新し、MLBでは大谷翔平選手がベーブ・ルースの持つ記録を102年ぶりに更新しました。また12月に開催されたサッカーW杯では、日本代表が強豪ドイツやスペインに勝利し、国民が歓喜に沸きました。
 さて本号は、昨年の国内外の動きや取組みが紹介された内容を多く盛り込んだ紙面となりました。大谷先生(鳥取)からはCOP27で議論された気候変動と健康の問題、田邉先生(山口)からは化学物質管理に関する法令や実践など最新のトピックを取り上げた中四国合同学会の報告、森田先生(歯科部会)からは昨年10月の労働安全衛生規則における歯科健康診断項目の改正、田口先生(技術部会)からは今後取り組む必要性の高い、自律的な化学物質管理の推進などについて寄稿頂きました。前述のスポーツ界と同様、産業保健分野も、歴史を塗り替えるというと大げさですが、大きな転換期にあることはこれらの報告からお分かり頂けるのではないかと思います。変わりつつある社会の中で、こうした国内外の動向を学び、働く人たちの健康や安全につながるように貢献していくことが、当学会の使命であることを改めて強く感じる号です。こうした最新の動向にふれられるのも学会員ならではメリットではないかと思います。
 来年(2024年)は、中国地方会が主管となって第97回日本産業衛生学会を広島で開催致します。今年は、その足元を固め組織体制の構築と展開が主となり、飛躍のステップになる準備を進めていくのが当地方会の大きな仕事です。うさぎ年にあやかって、大きな飛躍ができるよう、当地方会を盛り上げていきたいと決意をするところです。
 今年も激動の年になるのか、飛躍の年になるのか、皆さんとともに、同じ時代を充実して過ごしていきたいと思うところです。皆様のご健勝を祈念して、編集後記と致します。