日本産業衛生学会 中国地方会
地方会ニュース 第26号
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産業現場での歯科保健の導入を希望して

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
予防歯科学分野
森田 学
 歯周病と、糖尿病・脳血管障害・心血管疾患等との関連が注目されています。その背景にあるのは、喫煙や肥満などの共通リスク要因の存在です。したがって、職域での歯科保健対策は肥満対策、糖尿病対策等にもなり、一石二鳥以上の効果が期待できます。歯科疾患の特徴は、「見える」、「触れる」、「自覚しやすい」ことです。早期であればセルフケアで容易に改善できます。事業所における保健対策としては格好の題材です。歯の健康ばかりでなく、多方面への波及効果が得られると思います。健康日本21(第一次)でも、歯科関連の目標は全て達成されました。
 しかし、歯科健診を取り入れている事業所が多いとはいえません。理由としては、①法的根拠が無い、②歯科医師の参加が必須である、③一人一人の健診に時間がかかる、④歯周病検査には若干の痛みや出血を伴う、などが挙げられます。現在、②~④の問題を解決すべく、唾液等に含まれる蛋白質マーカー(ラクトフェリン、アンチトリプシン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ,ヘモグロビン)を敏感に検出するキットがいくつか市販されています。需要が少ないので、集団健診で導入できる価格設定になっていないキットがあるかもしれませんが、一度試していただけたら幸いです。
 最近の話題では、VDT作業による顎関節症の憎悪があります。顎関節症は顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節雑音、開口障害を主な症状とします。20 ~ 30 歳代の女性で多くみられます。VDT 作業中の「うつむき姿勢」や、VDT作業にともなうストレスが咬筋活動を引き起こし顎の異常を誘発するといった機序が考えられます。VDT 作業関連疾患に取組まれている読者の方は、顎関節の状態も簡単に把握してください。
 あと一つ話題提供というか、我々の教室が取り組んでいることを紹介します。参議院(平成 26 年4 月8 日)及び衆議院(同年6 月 18 日)の厚生労働委員会において、労働安全衛生法の一部を改正する法律案に対する附帯決議が行われました。その中で労働者の口腔の健康を保持することの重要性が初めて謳われ、また、歯科口腔保健の推進に関する法律の趣旨も踏まえ、業務と歯科疾患の関連についての知見の収集の必要性、さらに、収集した知見をもとに、労使関係者の理解を得つつ、職域における歯科保健対策について検討を行うことの重要性が提示されております。これを受けて、現在、労災疾病臨床研究事業費(厚生労働科学研究費補助金)をいただき、東京、新潟、岡山の事業所を対象に、ランダム化比較試験で、歯科保健介入の効果を評価しているところです。日本での試みは初めてで、またこのような大規模な介入研究は欧米でも報告されていません。ポジティブな結果が得られたら、産業現場への歯科保健の導入を後押しできるエビデンスになると期待しております。
第89回日本産業衛生学会(福島)のご案内
第89 回日本産業衛生学会(福島)のご案内

第89 回日本産業衛生学会企画運営委員長  
日本産業衛生学会東北地方会長  
福島県立医科大学医学部 衛生学・予防医学講座教授
福島 哲仁 
 日本産業衛生学会理事会において、2016 年度の学会を東北地方会でお引き受けすることが決定し、同地方会において、私が企画運営委員長に選出されました。皆様のご期待に沿えるよう東北地方会の皆様と協力して学会の企画・運営にあたりたいと考えております。
 2011 年の大震災から4年半が過ぎましたが、現在でも20 万人もの方々が避難生活を送っており、東北地方の復興はまだまだ途上にあります。福島県におきましては、事故を起こした原子力発電所の復旧作業、また、放射性物質汚染地域の除染作業といった特殊な業務もあり、産業衛生学上新たな課題も浮かび上がっております。
 その福島県の県都福島市において、2016 年5月24 日(火)から27 日(金)にかけて、第89 回日本産業衛生学会を開催することになりました。テーマは、「次世代につなぐ産業衛生学の研究と実践」としました。今日的な産業衛生の課題を取り上げつつ、未来に向けてどのような産業衛生学の研究と実践を引き継いでいくのか、震災を経験した東北地方だからこそ未来に向けて発信できる学会にしたいと考えております。
 以下に主なプログラムをお示しします。
1. メインシンポジウム
A. 次世代につなぐ産業衛生学の研究-実績・不足・展望-
    座長: 村田勝敬(秋田大学)、大前和幸(慶応義塾大学)
B. 次世代につなぐ産業衛生学の実践-大企業から中小事業所に広がる産業保健の実践と今後の展開-
    座長: 菅原保(本間病院)、柴田英治(愛知医科大学)
2. 特別講演
A. Joachim Schüz(Head, Section of Environmental and Radiation, International Agency for Research on Cancer)
    演題: The cancer burden related to occupational and environmental carcinogens and open research questions
B. 菊地臣一(福島県立医科大学 理事長兼学長)
    演題: 大震災・原発事故の危機下における大学の使命・トップの責任
 その他、シンポジウム18 題、教育講演16 題、一般演題から構成します。
3. 研修単位の認定
シンポジウムや講演に対して日本医師会認定産業医制度による単位認定、日本歯科医師会生涯研修の単位認定、日本産業衛生学会産業看護部会「産業保健看護専門家制度」継続研修の単位認定を行う予定です。
日本医師会認定産業医制度による産業医学研修会として、学会に参加される人の中から希望者には、以下の実地研修(事業所見学)を実施する予定です。
日時: 2016 年5月24 日(火)
場所: 東京電力福島第一原子力発電所
東北電力原町火力発電所
 皆様にお越しいただく5月下旬は、新緑の美しい時期と思います。多くの皆様に福島県にお越しいただき、未来志向の学会での研究交流と、美しい自然や歴史文化に触れて日頃の疲れを癒し、そして東北地方の復興の現状も直にご覧いただければと考えております。中国地方会の皆様のお越しを心からお待ち申し上げております。

2015 年10 月15 日 
トピックス:産業医学について
産業医学のトピックス―1

友和クリニック 
宇土 博
1.産業医学の目的
 産業医学(occupational medicine)の目的は、労働者の健康を増進し、職場を元気にすることです。労働者の健康障害は、1) 職業性疾病(occupational disease)、2)作業関連疾病(work-related disease)および、3)一般疾病(common disease) に分類されます。
 職場を元気にする産業医学とは何でしょうか?元気な職場とは、健康で、効率よく、風通しの良い、社会貢献できる製品やサービスを生産または供給する職場です。
 産業医学は、労働者の健康を増進するために、職業性疾患、作業関連疾患、および一般疾病について予防~治療~リハビリ機能を備える必要があります。
 現在の産業保健は、予防のみが重視され、治療は他科に任せるため、医学の中で独立的な基盤を持ちにくくなっています。
 産業医学が医学として独自の基盤を持つために予防のみでなく、図2に示す、治療、リハビリの機能を持つ必要があります。
 産業医学は、外部の医療資源を活用しながら、企業の診療所や保健部門を中心に展開されるプライマリケアであり、予防に加えてく、初期治療、職場復帰者のリハビリまで幅広い取り組みが行われています。当然、大学や病院における職業病外来や入院施設での専門的な産業医学を含んでいます。
 現在、産業現場での多発疾病は、腰痛、頸肩腕障害などの作業関連疾患、うつ病・発達障害などのメンタル疾患および一般疾病の糖尿病などのメタボリックシンドロームです。
 従って、現代の産業医学に必要な科学・技術としては、従来の方法に加えて、これらを解決できる方法が中核になる必要があります。  
2.産業医学の方法
 ILO/WHO(国際労働機関/世界保健機関)合同委員会は、産業保健(Occupational Health)を以下のように定義しています。
 「仕事の人間への適合と、人間の仕事への適応をはかること」です。これは、作業や作業環境を労働者に適合するよう改善すると同時に、労働者を適切な仕事に配置することです。産業医学の定義としても簡にして要を得たものです。
 それでは、これを実現する科学技術は何でしょうか?ここでは、禁煙、節酒、食事、運動等の従来の保健指導では克服できない職場の問題を解決するために産業医学に付加すべき予防、治療、リハビリの科学技術を述べます。(図2)
(1)予防の科学技術
 産業医学に必要な予防技術は、職場改善を行う一次予防技術です。職場に不具合が多ければ、産業医学活動の多くを、職場改善に割きます。
 有害環境を改善する衛生工学と作業を改善する人間工学が中核的な技術となります。とりわけ、人間工学は、作業関連性疾患の予防に不可欠で、産業保健関係者が習得すべきものです。
 人間工学は、作業環境・作業を働く人の解剖、生理、心理学的特性に適合させる工学的技術であり、その原理は人を環境に合わせるのではなく、環境を人に合わせることです。
 人間工学は、産業医学の第一原則の「仕事の人間への適合」を実現する科学技術です。
 表1に示すように、人間工学は、個別のワークステーション改善のみでなく、作業編成にアプローチすることで、部門全体の作業の流れの不具合を改善し、個人への負担の集中をなくし長時間作業による過労やうつ病の予防にも取り組めます。
表1.腰痛等に対する産業医学の方法
大 項 目 小 項 目
人間工学 作業編成、作業空間、床面、重量物、
作業面高、椅子
衛生工学 振動、寒冷、化学的因子
作業規則 作業内容、総作業量、一連続作業
 人間工学対策の基本は、重量物、不良姿勢、反復作業の改善であり、不良姿勢の対策が重要です。
図3に示すように前屈姿勢や座作業の負担を軽減することが重要です。
(2)人間工学のトレーニングセミナー
 我々は、2003 年から、産業保健従事者を対象に 人間工学的な職場改善のトレーニングセミナー(4部会合同職場改善セミナー)を産業医産業看護全国協議会で開催してきました。このセミナーは、
1) 産業医、産業衛生技術者、産業看護師、産業歯科医師が合同し、職場巡視し、
2) 各専門の立場から、職場の改善すべき問題点や産業保健活動に生かす良好事例を取材、
3) 参加型のグループ討議をし、
4) 良好事例3つ、改善すべき事例3つの低コストと高コスト対策を立案し、
5) 全体で発表・討議する。
6) 人間工学、衛生工学による職場改善の実践的なスキルの向上を図るセミナーです。
 これまで、12 回が開催され、約450 名がトレーニングを受け、職場改善の推進力になっています。
 2015 年の第25 回全国協議会では、それを発展させる第一回のアドバンスド・コースを行いました。
 次の機会に、アドバンスコースの内容を紹介します。
理事会報告
2015 年8月2日
日本産業衛生学会 理事会報告

理 事 
宇土 博 
理事会の主な内容を報告する。
1. 厚生労働科学研究費の配分の変化・・厚生労働行政の推進に資する研究に関する委員会報告書(平成27 年6月)
 平成25 年に安倍内閣は、日本再興戦略の中で、革新的医療技術の実用化の加速のため、医療分野の研究開発の司令塔機能の創設を謳い、平成26 年に「健康・医療戦略推進法」及び「独立行政法人日本医療研究開発機構法」が成立。
 平成27 年4月、日本医療研究開発機構が発足し、文科省、厚労省、経産省の所管する医療分野の重点的な研究開発予算を集約配分する。
 この機構での重点研究領域として医薬品・医療機器開発、再生医療やゲノム医療の実現、がんの臨床研究・治験などがある。
 これにより、従来の厚生労働科学研究費(平成26 年度、1,500 の研究課題で約480 億円)のうち、上記の重点研究分野の予算は、上記機構から配分される。
 このため食品衛生、労働安全衛生と健康安全・危機管理等の分野は、予算の重点化の対象外になり、予算減額が予想される。予算確保のため、平成26 年9月、日本衛生学会、日本産業衛生学会、日本公衆衛生学会の3者で、「日本医療研究開発機構の設立に伴う食品衛生、労働安全衛生、健康安全・危機管理等の分野の研究推進に関する緊急提言」が行われた。
 これを受け、厚労省は、厚労行政の推進に資する研究の今後のあるべき方向について以下の報告書をまとめた。
1) 感染症、食中毒、労働災害、有害な化学物質等は、国民の健康への大きな脅威であり、その予防にはエビデンスに基づく科学的な規制が必要。
2) これらの分野の研究推進にあたり、その成果を行政施策に反映されることが強く求められる。 これにより、社会・経済の健全な発展に資するもので、持続的な経済成長の基盤となることが確認。
2. 社会医学領域の専門医制度の確立の提言
 平成14 年厚労省の公示で、専門医の広告が可能になり、各学会の学会専門医制度が乱立して、専門医の質の低下が懸念。専門医の質の担保のため平成26 年5月に日本専門医機構が創立。平成26 年~ 27 年に専門医制度整備指針に基づく指導医資格基準の策定。学会認定医の更新作業の準備が行われ、平成29 年から新制度による研修が開始される。
 新専門医制度の基本領域専門医19 領域(内科、皮膚科、外科など)に社会医学系の専門医が入っていない。基本領域に社会医学系専門医を組み込むため、社会医学系の学会(日本衛生学会、日本産業衛生学会、日本公衆衛生学会、全国保健所長会など10 団体)の担当者が2015 年7月に会議を開き、社会医学系の専門医制度を確立のための協議会を設置。名称として、「社会医学系専門医」などが検討されている。
3. 産業保健看護専門家制度の規定が承認
 保健師、看護師の専門家制度を設立の規定が理事会で承認。今後、各認定試験に合格した者は、「産業保健看護専門家制度登録者(保健師 / 看護師)」、「産業保健看護専門家(保健師 / 看護師)」および「産業保健看護上級専門家(保健師 / 看護師)」に登録される。
4. 第89 回日本産業衛生学会 
 2016 年5月24 日(火)~27 日(金)福島県民文化センター(福島市春日町5-54)で開催。メインテーマ「次世代につなぐ産業衛生学の研究と実践」、企画運営委員長 福島哲仁(福島県立医学)。演題受付 2015 年11 月16 日(月)~12 月10 日(木)午前11 時。
5. 第26 回全国協議会
 2016 年9月8日(木)~ 9月10(土)会場 京都テルサ(京都市南区東九条下殿田町70)
 メインテーマ「変革期を迎えての産業保健の協働」、企画運営委員長 久保田昌詞(大阪労災病院)にて開催。
第25回産業医・産業看護全国協議会(周南)のご報告
第25 回 日本産業衛生学会
産業医・産業看護全国協議会 開催報告

日新製鋼(株)ステンレス製造本部周南製鋼所診療所
企画運営委員長 山本 真二 
 平成27 年9 月16 日から19 日の4 日間、山口県周南市において第25 回日本産業衛生学会 産業医・産業看護全国協議会を周南市文化会館で開催した。主催は中国地方会と四部会であり、中国地方会の代議員の方に企画運営委員をお願いし、山口県の産業保健スタッフには運営実行委員をお願いした。中国地方で全国協議会の開催は、米子(平成8 年)、広島(平成17 年)に次いで、山口県では初の開催である。今学会のテーマは「職場が元気になる産業保健の展開に向けて」とし「、職場が元気になる」をキーワードに、シンポジウム、教育講演、セミナーおよび実地研修を企画した。開催初日は雨であったが、2 日目より好天に恵まれ、約750 名の方々にご参加頂いた。
 9 月16 日:四部会合同職場改善セミナーを、日新製鋼構内にある製紙工場とクリーニング工場にて実施した。雨の中の職場巡視であったが、参加者の熱心な質問も多く熱気に溢れていた。
 9 月17 日:四部会合同職場改善セミナー発表会に続き、実地研修(事業所研修)は、製造業(東洋鋼鈑、マツダ)に加え、放送業のKRY山口放送、メンタルヘルス対策の一環として利用され始めた森林セラピー体験(山口市徳地)、地場企業のだしの素で有名なシマヤ、地場の造り酒屋の山縣本店と多岐にわたる事業所にご協力頂いた。
 9 月18 日、19 日:基調講演は、労働科学研究所の小木先生よりメインテーマに沿って「職場を元気にする産業保健活動について」をお願いした。人間工学的視点からメンタルヘルス対策まで職場改善が果たす役割についてお話を頂いた。特別企画は、厚生労働省の泉労働衛生課長より「ストレスチェック制度の施行に向けて」をお願いした。メインシンポジウムは「多様化するうつ病問題を解決して職場を元気にする~ストレスチェック活用の可能性を探る~」をテーマに、関心の高いストレスチェックの活用を大いに議論することができ、有意義なメインシンポジウムであった。その他教育講演5 題、シンポジウム7 題にも多くの方にご参加頂いた。また、今学会より四部会合同職場改善セミナーアドバンスコース(9 月18 日)が新設された。その他、事例検討「メンタルヘルス復職困難事例への対応」、ポスター演題54 題、合同開催(第24 回産業衛生技術部会大会および第21 回産業衛生技術部会専門研修会)、8 つの自由集会のほか、学会企画として「編集委員長と話そう-査読者との付き合い方-」、産業看護部会主催の「産業看護部会模擬試験」が開催された。18 日の夜には学会懇親会がホテルサンルート徳山で開催され、約200 名の方々 にご参加頂いた。懇親会では全国的に有名になった朝日酒造の「獺祭」など山口県の銘酒コーナーが大賑わいで、利き酒大会も大いに盛り上がりました。今回、本学会を地方で行うということで、約600 名の参加者を予定していましたが、3 日目で参加が700 名を越えた時は、学会スタッフ一同から拍手が起こりました。安堵した瞬間でありました。最後に「職場が元気になる」企画に多くの方々のご参加を頂きました。参加者が元気になって自分の職場を元気にして頂けることを信じています。また、中国地方会の皆様には大変ご協力を頂き、ここに改めて、心より御礼を申し上げます。
部会報告:産業看護部会報告
第25 回日本産業衛生学会
産業医・産業看護全国協議会を終えて

中国地方会幹事
落合のり子
 山口県周南市で開催された第25 回日本産業衛生学会 産業医・産業看護全国協議会は、すばらしい好天に恵まれました。ストレスチェック制度導入直前というタイミングでもあり、産業医をはじめ多くの方々が参加され、協議会を通じて交流を深める機会となりました。企画運営委員長の山本真二先生、運営実行委員長の井出宏先生をはじめ、ご協力いただいた皆さまとともに、協議会の成功を喜びたいと思います。
 今回の協議会では、山口県の産業看護職の皆さまに大変ご協力をいただきました。特に、その取り纏めをしてくださった藤井ますみ氏(日本通運株式会社下関支店)と大田由美枝氏(株式会社中電工山口統括支社)は、1 年以上に渡り、きめ細かな連絡・調整をして多くのスタッフをリードしてくださいました。心から感謝申し上げます。
 産業看護部会が企画したシンポジウムでは、古くて新しいアルコール問題を取り上げ、テーマを「アルコール健康対策基本法にみる産業保健スタッフの責務~予防から多量飲酒者の節酒指導まで~」としました。最終日最後のプログラムにも関わらず、250 名の参加者があり、アルコール依存症の専門医、産業医、産業保健師それぞれの立場からの講演を熱心に聞いていただきました。
 アルコール専門医の杠 岳文氏(国立病院機構肥前精神医療センター院長)は、わが国のアルコール医療の治療対象者が、重症のアルコール依存症患者に限定されていることを指摘されました。まずは節酒を目的とした予防的介入を一般医療、プライマリケア、産業保健の場で展開することが重要であるとし、アルコール依存症の予防的介入方法である節酒指導やブリーフインターベンション(邦訳 で「簡易介入」や「短時間介入」)について解説されました。産業医の鎗田圭一郎氏(鎗田労働衛生コンサルタント事務所)は、地域医療のネットワーク化の推進による関係者の連携強化について、産業保健師の住徳松子氏(アサヒビール株式会社博多工場健康管理室)は、自律的適性飲酒を目指す総合酒類企業の産業看護職の実践活動の成果について解説されました。
 シンポジウムによって、改めてアルコール健康対策基本法の意義や取り組みの必要性、また、職域における発生予防、進行予防、再発予防のポイントを理解することができ、我々の責務の重さを感じ ました。
 今回の協議会から、産業保健看護専門家制度における専門家継続研修の単位認定が開始されました。新制度では、これまでの手帳にスタンプ押印というスタイルから、手帳に受講証添付および各自で研修概要記載のスタイルに変更になりました。新しくなったばかりで、ご不明なことも多いことと思います。新制度に関しては、日本産業衛生学会の産業保健看護専門家制度ホームページをご覧ください。
 これからも、産業保健の発展に向けて、皆さまとともに努力していきたいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。
部会報告:産業衛生技術部会報告
産業衛生技術部会報告

「産業衛生技術部会」中国地方会代表幹事
川崎医療福祉大学医療福祉学部
田口 豊郁 
日本産業衛生学会産業衛生技術部会について
 日本産業衛生学会産業衛生技術部会は、2001 年4 月、高知で開催された日本産業衛生学会総会において承認(産業医部会、産業看護部会に次ぐ3 番目の専門部会として)されました。産業衛生技術部会では、労働衛生の三管理の中でも、特に、作業環境管理(Working Environment Control)および作業管理(Work practice Management)を中心とした幅広い活動をしています。産業衛生技術者・衛生管理者が、その専門性をより高めていくための情報を発信しています。
中国産業衛生技術部会の主な活動内容
 中国地方会と四国地方会で各々地方部会を立ち上げ、2002 年に合同で、第1 回中国四国産業衛生技術部会研修会を第46 回中国四国合同産業衛生学会(岡山、2002 年11 月16 日)の中で開催しました。以後今日まで、中国四国合同衛生産業衛生学会の中で中国四国産業衛生技術部会研修会を実施し、昨年の第58 回中国四国合同産業衛生学会(広島、2014 年11 月29 日)で13 回目になりました。
 また、これまでに、第7 回産業衛生技術部会大会(山口)・第12 回産業衛生技術部会大会(広島)および第2 回産業衛生技術専門研修会(広島)を中国産業衛生技術部会で担当しました。
第24 回産業衛生技術部会大会(合同開催/第25 回産業医・産業看護全国大会)
 2015 年9 月16(水)~ 19 日(土)に周南市文化会館で、「第25 回産業医・産業看護全国大会」が開催されました。中国産業衛生技術部会も企画運営委員として参画しました。9 月19 日に、「①第21 回産業衛生技術部会専門研修会」および「②第24 回産業衛生技術部会大会」を開催しました。これらの内容については、産業衛生技術部会のホームページに掲載しています。
第21 回産業衛生技術部会専門研修会
テーマ:地元企業の労働衛生管理の実際(地元企業の衛生管理者活動報告)
掲載ホームページ:http://jsoh-ohe.umin.jp/senmon21/150919senmon21.html
第24 回産業衛生技術部会大会
テーマ:「個人ばく露測定に関する検討会報告書」の報告会
掲載ホームページ:http://jsoh-ohe.umin.jp/taikai24/150919taikai24.html
産業衛生技術部会のホームページ http://jsoh-ohe.umin.jp/
 産業衛生技術部会の活動状況については随時、ホームページで紹介しています。当部会へは、日本産業衛生学会員ならばどなたでも入会できます。日本産業衛生学会費以外の会費はかかりません。多くの日本産業衛生学会員がこの産業衛生技術部会へ参加されることを期待しています。産業医や産業看護、産業歯科保健の先生方の参加を歓迎いたします。
 産業社会の進展・変化により労働形態は急速に変容してきています。すなわち、技術革新の急速な進展、本格的な高齢化社会等、社会経済情勢の変化に伴って労働者を取り巻く環境が大きく変容しつつあります。また、労働者の健康に対する意識は、肉体的健康の維持から、心身両面にわたる健康の保持、増進へと大きく変化してきています。産業衛生技術部会が、現在およびこれからの産業現場に求められる衛生管理についての情報交換・議論の場になること、さらに、より多くの衛生管理者が産業衛生技術部会の活動に 参加することを期待しています。
部会報告:産業歯科保健部会報告
産業歯科保健部会活動報告

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
予防歯科学分野
森田 学
 大阪で開催された第88 回日本産業衛生学会でシンポジウムを企画しました。タイトルは「メタボとペリオ対策 健康増進への第一歩」です。本レターの冒頭でも書いておりますが、歯周病と、糖尿病・脳血管障害・心血管疾患等との関連が指摘され、徐々にそのメカニズムが基礎研究を通じて明らかにされつつあります。本シンポジウムでは、衛生学の視点から、1) 歯科・医科医療費の相関分析、2) 高齢社会から求められる医療 ~今,そこになぜ改めて医科歯科連携が重要なのか~、3)Mouth &Body の視点で見た健康に関する情報発信、4) メタボに悪影響な歯周病(ぺリオ)は誰が診る?、といった様々な視点から討論しました。参加者も300 名程度と、私の知る限りでは、歯科保健部会主催シンポジウムの過去最高記録であったのではないかと思います。また、昨今の話題である、「社会格差」、「貧困」を扱ったお研修会(講師:中久木 康一先生、東京医科歯科大学)は非常に興味深い内容でした。日本で働く外国人労働者や非正規雇用労働者、失業者を対象とした歯科保健活動報告ではありましたが、歯科医療制度・体制の国々の差異についても考える良い機会でした。
 さて、周南市で開催された第 25 回日本産業衛生学会 産業医・産業看護全国協議会では『労働を支える「食」を考える』をテーマにシンポジウムを企画しました(写真)。私自身、大学病院の診療室で臨床に携わっておりますが、患者さんの栄養摂取や勤務形態を考慮した歯科治療・保健指導を実践しているかと問われたら甚だ怪しいのではと思います。職場での「食」を多面的に考える良い機会でした。メインシンポジウムと並行した日程であり、参加者数を危惧しておりました。しかし、歯科関係以外の方の参加もあり、産業医の先生方と活発な討論ができ,自分としては満足しております。
 自虐的かもしれませんが、 現在の歯科界全体の最大の関心事は、日本歯科医師連盟の政治献金問題です。真偽のほどは専門家に任すとして、そうでなくとも対策の遅れている産業現場での歯科保健事業にとって逆風とならないことを期待したいと思います。
 最後に、中国地区の産業歯科保健部会の会員は10 名にも達しておりませんが、地道に活動を継続していきたいと思います。今後とも産業歯科保健に対するご理解とご協力をお願いいたします。
事務局紹介
事務局紹介・編集後記

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 
公衆衛生学
江口 依里
 平成27 年4 月より岡山大学大学院医歯薬学総合研究科公衆衛生学荻野景規教授が日本産業衛生学会中国地方会長に就任し、当教室にて産業衛生学会中国地方会の事務局を引き受けることとなりました。私は、平成26 年12 月に愛媛大学から岡山大学に異動した直後に事務局担当となりましたが、不慣れなこともあり皆様にご心配をおかけしたのではないかと思います。大阪府大阪市で開催されました第88 回日本産業衛生学会、山口県周南市で開催されました第25 回日本産業衛生学会産業医・産業看護全国協議会中の幹事会にて、先生方にさまざまなご意見を頂き、いくつかの新たな取り組みが決定されました。まずは、会長の提案により、中国四国産業衛生学会とは別に中国地方会の研究会を開催する運びとなりました。多くの先生方にご参加頂き、中国地方の産業衛生学に関する研究実践のさらなる発展につながることが期待されています。また、新たに日本産業衛生学会中国地方会ホームページを立ち上げ、これまで、紙媒体にて郵送していた本ニュースレターはホームページ中の会員専用ページにて、電子発行されることになりました。さらに多くの先生方に読んでいただければ嬉しく思います。その他にも中国地方の産業衛生の発展につながるさまざまな事柄について幹事の先生方と協議させていただいております。まだまだ未熟な(若い?)事務局ではございますが、このように電子発行でのニュースレター第1 号を発行することができたのはご多忙中にもかかわらずご助言、ご協力いただいた幹事の先生方、代議員の先生方、会員の先生方のお力添えのおかげです。心より感謝するとともに今後とも暖かく見守っていただき、ご指導ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。